テキーラボーイ流ナイトサーフィン

僕の友達で昭和バブルよりもバブルな男がいる。夜の色街へと出れば、遊びきるすさまじいバイタリティと、性欲を兼ね備えた彼の遊び方は常人の思考を浮世へ置き去りにするほどだ。

そんな遊び方をするもんだから、行く先々で有名人である。お店をはしごするなかで、どんなことが起こってしまうかお話ししよう。

テキーラボーイ被害者の会

テキーラボーイのナイトサーフィンは、まず十分な食事から始まる。誰かが「性欲と食欲は比例する」と、いっていたような気がするのだが、彼を見ていると高速でうなずける。遊びの前、彼はいつも僕にこう聞く「今日どこで何食べる？」と。もちろん僕も答えていた。しかし、最近では答えることを辞めたのだ。答えるたびに僕の意見が採用されることがないから、ただただケセラセラで彼の意向を受け入れることに徹するスタイルに変更。

ほとんどの場合「今日はタイ料理じゃないんだよなー」と言っている。そして、吸い込まれるように日系居酒屋に入るのだ。遊ぶ前だから腹八分目と思いきや、限界を超えて全力で食べる、食べる、食べる。一巡したからもう終わりか？と、思っていても2巡目が来る。それではじめて、遊びの準備完了だ。

食欲に満ちたテキーラボーイはパーティーモードにシフトチェンジ。彼の好む店は日本人が血眼で、一夜を過ごすパートナーを探すような店というよりは、欧米人がどんちゃん騒ぎでご機嫌な店だ。いざ1件目の敷居をくぐり中へと、いざなわれる。

今でこそ見慣れているが、店が一瞬ざわつく。「テキーラボーイだ！」と神が降臨したかの如く、キャストたちが声を上げる。普段は黒子に徹するチーママたちも、甘いものに群がるありんこのようにうじゃうじゃ湧き、店内が狂喜乱舞と化す。チーママたちは一線を退いているため、なかなか飲める機会がないから無理もない。

そして、テキーラ祭りが始まると、芋ずる式に「私彼女のピーサオ（姉）なの。1杯飲んでいい？」とおこぼれを欲しさにボルト並みの速さでやってくる。「黙って水でも飲んでおけ！」と僕は思うイライラと。だけど彼は快く受け入れる。まさしくテキーラボーイの何恥じない、飲ませっぷりだ！

店がゆがませるほど、キャストを吸引してしまう力をもちがゆえに、他の客が座る席に女のコたちがいなくなり過疎化が始まる。欧米人は怪訝な顔つきになり、やがて店を後にする。気が付けば貸し切り状態の店内。そんな異常事態も今では慣れっこだ。慣れとは恐ろしい、こんな事態でもなんとも思わなくなる。

そして、店のオーナーが挨拶に駆けつける。しまいにはサービスドリンクまで出てくる始末だ。パンデミックは開けたとはいえ、まだまだ遊ぶ人は少ない夜の街で、こうゆう遊び方をする彼はまさに救世主なのだ。だからこそ、テキーラボーイの犠牲となり、思いを寄せる女性を失った欧米人たちが去っていくことに関しては、申し訳ないが仕方ないのだ。

テキーラボーイに出会ってしまったら、日が悪かったと思ってあきらめるほかない。

テキーラボーイの流儀

「全力夜遊び」そんな言葉が彼にはぴったりだ。名前の通り凄まじい量のテキーラが運ばれてくるわけだが、キャストたちが喜ぶのはレディースドリンクだけではない。サービス精神旺盛なテキーラボーイは、テキーラの下に100バーツを置き始める。キャストたちも欲が隠し切れずはみ出して、その目は＄ではなくBに早変わり。

しかし、そこはテキーラボーイ。百戦錬磨欲求保持者たちのバーツ欲が枯れるほど飲ますのだ。最終的にはキャストはベロベロニなり、体にあるモノを吐き出す。そして、彼もほどほどに泥酔モードになるものの、まだまだ1軒と言わんばかりに持ちこたえる。

いつも会計の時間になると、果たしていくらなんだろう・・・とソワソワするがでキーラボーイは動じない。「15,000バーツか・・・安いな」って、いくらだと思っていたんだ？！ときにブレーキが壊れると、50,000バーツを超えるときもある。

僕が驚くと「いや～趣味なんでかすり傷」と、よくわからないことを淡々というのだ。果たして今のバンコクにこんな遊び方をする男が何人いるだろうか。。。たまに石油王系のライバルのような男が居合わせることがある。彼もまた派手な遊び方をして、テキーラボーイを意識しているようだ。触れようものなら爆発するほど、ライバル目線。

しかし、そこはさすがテキーラボーイ。彼はそんな視線すら意に介さない。器の違いは明確だ！

終わらない祭り

到底1軒では終わることもなく、ゴーゴーホッピングが始まる。酔っぱらっていても、お店の雰囲気を大事にするテキーラボーイは1軒1軒暖簾をくぐり、店をのぞき込む。そして、瞬時に今日入るべきか入らないべきかを見極める職人技を披露する。客引きもプロだ。この男は行かせるわけにはいかないと、必死に行く手を阻止する。

だが、ここでもテキーラボーイは意に介さない。するりとフェードアウトし、誰も傷つけず次の店へと向かい出す。2軒3軒・・・と回り、飲めるところがなくなるまで飲み続けるのだ。どこまで飲んでも次の朝にはケロッとしている。「遊び過ぎたからしばらくいいや」と、反省するそぶりは大体1週間以内に無効化されることが多い。

ちなみに彼の中で下半身と欲求と、飲みに行く欲求は分別されているので、飲みなら飲みというモードになる感じだ。それぞれ、百人百色の遊び方があると思うが、テキーラボーイの遊びは正気の沙汰ではない。余談ではあるがバンコクには変わった遊びをする人がいるようだ。

ここでは名前を伏せるが、キャストの体に日本人の名前が感じで彫られていることがある。それも、行く先々で同じ名前を目にする。聞いたところによると「～バーツあげるから、この刺青を入れてきなよ」と言われるらしい。左右対称の漢字は外国人のとっては、整っていてカッコよく見えるのだろうか。はたまた目先のバーツに泳がされているのかはわからない。

そんなバンコクでは、今日も祭り屋が終わらない夜を暗躍している。